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俺の上京物語。
続編を書かなければと思いつつそのセンセーショナルな出来事を文章にする事はなかなか難しいのです。特に憧れの原宿に行った時の感動、気持ちの昂り匂いや音や風、空気をどうしても表現出来ないので、そこはまたいつか書こうと思う。
36年前の今日の事を思い出しながら書いています。
長いです。興味のある方だけ読んでくださいネ。

【16歳のツッパリ店長】

五反田の駅を降りた。田舎育ちの俺には初めて聞いた駅名だったが原宿から山の手線でほんのいくつかで到着した。

さすがに東京だけあって人が多い。東京に住めるのならどこでも良いと思っていたが原宿に近ければ尚ありがたい。平日の夜だというのにお祭りのような賑わいだ。空はすっかり暗くなっていたが駅前は街灯やネオンでまるで昼間のように明るい。指示通りに東急ストア沿いに歩いた。これからお世話になるかもしれないパン屋の面接なのだ。住み込みで働く事になれば寝る所の心配はなくなる。昨夜みたいに新宿歌舞伎町のゲームセンターで居眠りしてる間に変なおじさんに手をスリスリされたり、つまらないコインゲームに付き合わされたりするのはゴメンだ。オールナイトの映画館に立て続けに行くほどお金も無い。今夜からでも住み込みたいとパン屋に面接の電話をしてくれた見ず知らずの親切な原宿の不動産屋さんのお兄さんに感謝した。

思えばまる3日ほど風呂にも入ってないし、出て来たままのリーゼントヘアーに革ジャンの姿であったがこれが俺のスタイルだ。そしてこれ以外の洋服は持っていなかった。サラリーマン風の会社帰り男達、白い息を吐きながら手を繋いで仲睦まじく歩くカップルや、けらけら笑う女達、角に立つ飲み屋の呼び込みのおじさん、路地裏の賑わい、街の持つ怪しさと初めての土地を歩くワクワク感はたまらない。そのパン屋はすぐに分かった。小さな店だがガラス張りで思ったより立派な店構えだ。ガラス越しの棚の上にはいろんな種類のおいしそうなパンが並べられていた。思わず唾をごくりとのんだ。ガラスにグリーンの文字でグリーンテリアと書いてある。躊躇わずドアを開ける。

「いらっしゃいませ~」お店に入ると学生アルバイトであろうか、2人の可愛い笑顔の女性店員がレジで迎えてくれた。店内には歌謡曲が流れていてこんがりとパンのいい匂いがする。面接に来たことを伝えると奥に案内された。お店の奥がすぐに製パン室になっていて真ん中に大きな調理台、壁側には扉が真っ黒く年季の入ったパン焼き窯らしきもの、隅っこにはパン生地を捏ねるらしき器具が置いてあり、店内とはまた違う初めて嗅ぐ不思議な匂いがしている。
女性店員の1人が店長に伝えるべく更に奥の扉を開けて二階に登るであろう階段を上がって行った。
製パン室をゆっくりと見直すと、その建物はお店の正面の綺麗で立派なイメージとは違い、相当古くに建てられた木造の建物であることが伺える。裏側の現実にちょっとしたショックを覚えた。
すぐに二階から店長らしき人が下りてきた。すらっと背が高くぐりぐりパーマのリーゼントヘアーに細く整えた眉毛、色白でキツネ目の若い男だった。額には青々と剃りが入ってる。ツッパリだ。ガラは悪いが今人気のの横浜銀蝿みたいでなぜか好感を持った。しかし製パン工だというのに足元はアミサン。ローラーではなさそうだ。
不良だがどこか都会の臭いがする垢抜けた印象だ。彼は近くにあったパイプ椅子に腰掛けるよう僕に師事しながら年齢を聞いて来た。俺はサバ読んで18歳と答えた。17歳だと何かと不利になるのではないかと思い東京では18歳で通すつもりだった。
すると、店長の彼はなんと16歳だと言う。
彼は頭が良く雄弁で若いけど店長としての威厳を感じた。今からすぐに働き今夜から住み込みたい事を伝えた。この人には正直に話した方が良い、正直に話すべきだと直感し九州から家出してきた事、本当は17歳だという事も話した。なんと彼も家出して来てここに住み込んでいると言う。
「お腹空いてるだろう、カツ丼と天ぷらそばでいい?」
アルバイトの女の子に出前を頼むよう支持し会ったばかりの俺にご馳走してくれた。

彼は手際よく製パンの片付け作業などをしたがらカツ丼を食べる僕に沢山の質問をして来た。「九州ってどこにあるの?ヘェ~そんなに遠いとこから来たんだ~」
俺をまるで異性からやって来た宇宙人のかのように歓迎してくれた。自分より一つ年下の店長はすごく大人びていて頼り甲斐のある男だったし、すぐに仲良くなれると確信した。

まもなくお店の二階の住み込み部屋に案内された。古く埃臭い木造の建物で細い廊下を入って行くと窓も無い薄暗い畳の間があった。使い古された布団が積み上げてありポツンと小さなブラウン管のテレビがあった。

部屋の隅っこに唯一の持ち物である紙袋をポンとおき、寒さを凌げる場所で寝られる事の安堵感とこれから始まる東京暮らしのワクワクを噛み締めた。

16歳のツッパリ店長はテレビでも観て寛ぐように僕を促し部屋を出て行ったかと思うと、すぐに戻ってきて障子をノックした。

彼は俺に一万円札を差し出して

「お金あるのか?これで身の回りの物を揃えなよ」

と言って降りて行った。

テレビではスティーブ・マックィーンの『大脱走』をやっていた。

【1981年12月26日夜】
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