佐賀の地元の駅で入場切符だけを買って東京を目指し上り電車に乗った。山口県の柳井駅というところが終点だった。誤算だった。いや、誤算というより上りの電車に乗れば東京へ連れて行ってくれる、ただそう思っていて他に何も考えていなかった。

12月である。電車を降りると寒い。その柳井駅はかなり田舎らしく辺りは真っ暗でホームにも人影はまばら。わずかなお客さんが次々と出て行くと駅員さんが改札口付近に立っていてこちらを見ている。間違いなく最後のお客である俺が改札を出るのを待っている様子だ。
まずい!ここで捕まったら全てが終わってしまう。とっさに目の前にあったトイレに入った。

大便の方に入り中から鍵を掛けた。どうやって駅の外へ出るかこれからが問題だ。思った通り駅員さんがドアをノックしてきた。
「お客さん~もう閉めますよ~」
返事をするべきかどうか迷ったが沈黙を守った。するとなお一層しつこくノックしてくる。
絶体絶命である!
暫くすると駅員さんが諦めて出ていった気配がした。ドアを開けそっとホームを見渡してみるとずっと遠いところに駅員さんの影が見える。

今だ!トイレの横の壁によじ登った。身軽さにはめっぽう自信があった。幸い壁の向こう側は路地だった。ひょいと駅の外へ出ることが出来た。脱出成功!追手が来る気配も感じなかったがそそくさと出来るだけ遠くまで逃げるように歩いた。

寒い!いや寒いはずだがそれ程苦にならない。寒さよりワクワクの方が勝っている。夢を実現する第一歩を踏み出したのだから。
少しの荷物を抱えて夜の町を彷徨う。紙袋に少しの着替えだけを詰めて家を出てきた。リーゼントにお気に入りのジーンズにお気に入りの革ジャン。お金は一万五千円程度、あとは何もない。

一晩過ごせる暖かい場所を探し町中を歩いてみたが小さな居酒屋みたいな灯りが2、3軒あっただけだ。コンビニなどもほとんど無かった時代である。もちろん居酒屋などには入れない。17才だ。家出がバレて捕まってしまうのではないかという思いから極力人と接する事を避けなければならなかった。オールナイトでやっている映画館は無いだろうかと駅の地図を頼りに映画館にたどり着いたが、田舎である。真っ暗だ。仕方なくその映画館の入口で丸くなり一晩を過ごす事になった。寒さで眠れるわけもなく、ある時は野良犬に吠えられたりしたが耐えた。身体が芯まで冷えだ頃うっすらと明るくなって来た。朝だ。

昨夜逃亡した柳井駅へ戻り切符を買って改札をくぐりそしてまた東京を目指して朝一の上り電車に飛び乗った。車内は暖かかった。
ふと気がつくと居眠りをしていた。昨夜は一睡もしていなかったので無理もない。ただ、乗った頃にはほとんどガラガラだった車両には人がいっぱいだ。しかも貴重なシートを独占するように横たわって寝ていたらしい。どこをどう走ったかどう電車を乗り継いだかほとんど分からない。とにかく上り電車に乗れば東京に辿り着く、それしか考えていなかった。

事前に時刻表とかチェックするようなタイプではない。いつも行き当たりばったりだ。途中すごく田舎の町を走ったりしてそこが終点だったりしてまた反対方向に戻ってみたり、どちらが上りか下りかさえ分からない場面が多々あった。中国地方を通過。その時に知ったがローカル線では上りとか下りとはの表示など無くまして東京方面など書いてある訳がないのだ。

それでもその日の夜には京都あたりまで来ていたのだと思う。大きな駅に着き「東京行き」の表示を見つけた。迷わず飛び乗った。
夜行列車である。そのまま東京へ連れて行ってくれる電車だし今夜は野宿をしないですむのだと思うとホッとした。夜行列車はローカル線と違い暖房がしっかり効いていてなお一層ホッとさせられた。
もちろん切符は柳井駅で買った一番安い切符だ(110円ぐらいだったと思う)。

ローカル線の時も勿論だが「切符拝見します」と時々車掌さんがやって来る。ドキドキしながらトイレに隠れたりそれを交す事を繰り返して電車を乗り継いで来た。
向かいには老紳士が座ってきて「ご旅行ですか」と話しかけて来た。勿論家出してきたなどとは言えないので旅行だと答えた。どこからどう見てもツッパリのクソガキの俺に対して終始敬語で接してくれた。話した内容はほとんど覚えていないが、その紳士的な彼のような大人になりたいと今でも思っている。
早朝に東京へ着くと「どうぞ良い旅を」と言ってくれ分かれた。
東京に着くと俺は新宿駅を目指した。新宿を選んだ理由は文通相手の女の子の住所が新宿区四谷だった事という安易なものだった。
切符を持っていない俺は虫の這い出る隙もない新宿駅のアルプス広場で数時間途方に暮れていた。
しかしこうしてもいられないと駅構内をうろうろしてみると精算窓口に人が並んでいるのを見つけた。そこへ思い切って並んでみた。
俺の番がやって来た時
「渋谷駅から乗ったんですけど、切符をおとしてしまったんです」
と言ってみた。
一か八かだ!
窓口の駅員さんは俺の目をじっと見つめて優しく
「遠~~くから乗ってきてそういう人がいるんだよねぇ」
「でも、君の事を信じよう~!」
彼は俺の事を見抜いていたはずだが130円程度で俺に東京上陸の免罪符をくれた。
(1981年12月25日朝)
つづく
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コメント
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いよいよ東京上陸ですねo(^o^)o!!
優しい駅員さんでよかった、よかった。
やっぱりタケさんは、良い人とのご縁というか…何か持っている気がします。
bebe2号 * URL [編集] 【 2016/01/05 12:10 】
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後から思えば本当に優しい人々に助けられてきました。
キャラメル王子 * URL [編集] 【 2016/01/09 01:21 】
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