『赤のれん』と書かれた看板のその和食料理屋は、入口に立ち喰いのそば屋が併設された庶民的なお店のようだ。理想的だ。なぜか自分にぴったりだと感じたのだ。

『アルバイト募集!』の貼り紙をもう一度確認する。

書き慣れぬ履歴書を握りしめのれんを潜った。

このままでは堕落してしまう。とにかく仕事が欲しかったのだ。
ここ1ヶ月程はしばらくパンの耳、あのパン屋の軒先あたりに10円ぐらいで売っているパンの耳くらいしか食べていなかった俺は腹ペコだった。いや、腹ペコというより軽い栄養失調だった。自宅の階段を3階まで上るだけでも息切れするし手摺りを伝わりやっとのことだったほどなのだ。おまけに酷い便秘。
人間の身体が食べ物をとることで動いているという事を生まれて初めて知った瞬間だ。

お店に入ると多くの従業員が走り回るように働いていて活気がある。二階に大広間があるのだろう。右側に広い階段がある。

近くにいたそば屋の店員さんに面接に来た事を伝えた。

彼はちょっと嬉しそうに大きな声で店長を呼んだ。

すると奥から法被を着た小太りで頭の薄いタヌキみたいな店長らしき人があたふたしながら出て来た。

入口に近いテーブルに案内され履歴書を手渡した。小太りの店長は最初は17歳だという事にちょっとびっくり、いや不信感さえ抱いてるような面持だったが、とにかく働きたい事を告げた。

そんな時お店に大柄な男が威勢良く入ってきた。店内に一瞬緊張した空気が走った。

小太りの店長をはじめ従業員たちは一瞬仕事の手を止めその大柄な男に挨拶をした。

その人こそがこの店の社長だとすぐに分かった。

彼は俺を見るなり

「おっ、君は働きたいのか?!17才で働きたいとは、苦労したんだな!」

「お腹空いてるだろ、今すぐ働け」


そう言うと、スタッフに僕の食事を作るように命じた。

すぐにかつ丼が運ばれて来た。

「そばも食うか?」

そしてそばに天ぷらをのせるように命じ運ばれて来た。

「それで足りるか?食べ物屋で腹空かせてたんじゃいけねぇぞ!たくさん食べろ!」


久しぶりに食べるちゃんとしたご飯と社長らしき人の好意に涙が出そうだった。


1982年 春


上京して初めて住込みで勤めた五反田のパン屋が1ヶ月程度で閉店、それから1ヶ月後の話。

近頃、昔の事を思い出して書き留める作業をしていて、こないだ久しぶりに五反田に行ったけどそのお店ももちろん無くなっているし、その他に世話になったお店3軒、下宿してた所も無くなっちゃってたね。すっかり様変わりしてしまったってわけだ。

時代は変わるんだよね。

駅のガードと石垣だけはきっと変わってないんだろうなって思って(↑画像)

しかし、また飲食店をやる時は同じ事を若い奴に言うね!いや、言わなきゃいけないと思っている!

「たくさん食べろ!」

って
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コメント
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五反田の辺りもだいぶ変わっていますよね~。

昔、自分が棲んでいたところがなくなるのって、なんだか切ないですよね、
bebe2号 * URL [編集] 【 2014/09/18 11:27 】
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ホントに変わっちゃって^^;

変わってないのはガードと駅の脇の石垣ぐらいかな?なんて思ってこの画像なんです( ´ ▽ ` )ノ
キャラメル王子 * URL [編集] 【 2014/09/18 17:56 】
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